BET理論と比表面積測定
BET理論の背景
BET理論は、1938年に Stephen Brunauer(ブルナウアー)、Paul Emmett(エメット)、Edward Teller(テラー)の3名が発表した多層吸着理論です。論文タイトル “Adsorption of Gases in Multimolecular Layers” (J. Am. Chem. Soc., 60, 309, 1938) に由来します。
それ以前の支配的な理論であった Langmuir の単分子層吸着モデルでは、実験で観察される吸着等温線の全形状を説明できませんでした。BET理論は多層吸着を考慮することで、実験データをより広い相対圧範囲で再現することに成功し、現在も比表面積測定の国際標準として広く採用されています。
多層吸着モデルの仮定
BET理論は以下の仮定に基づいています。
- 吸着は多層で起こる:第一層(固体表面上)に吸着した分子の上に、さらに第二層、第三層と積み重なって吸着が起こる
- 第一層の吸着熱は固有の値 E₁ を持つ(物理吸着+固体との相互作用)
- 第二層以上の吸着熱は凝縮熱 EL に等しい(吸着質の液化熱に相当)
- 表面は均一である(すべての吸着サイトは等価)
- 吸着層間の相互作用はない
仮定3により、第二層以上は液体と同様の性質を持つとみなします。
BET式
これらの仮定から導かれる BET 式は以下のように表されます。
p / [V(p₀ - p)] = 1/(VmC) + (C-1)/(VmC) × (p/p₀)
各変数の意味:
- p:吸着質(窒素)の圧力 [Pa]
- p₀:測定温度での吸着質の飽和蒸気圧 [Pa]
- p/p₀:相対圧(0〜1)
- V:相対圧 p/p₀ での吸着量(標準状態換算 cm³/g)
- Vm:単分子層吸着量(cm³/g):全表面を単分子層で覆うのに必要な吸着量
- C:BET定数(第一層の吸着熱 E₁ と凝縮熱 EL に依存):C ≒ exp[(E₁ - EL)/RT]
BETプロットと比表面積の算出
BETプロットの作成
BET式を変形すると、p/[V(p₀ - p)] を縦軸、p/p₀ を横軸にプロットすると直線関係が得られます(BETプロット)。
y = (C-1)/(VmC) × x + 1/(VmC)
ここで y = p / [V(p₀ - p)]、x = p/p₀
直線の傾き:slope = (C-1)/(VmC)
切片:intercept = 1/(VmC)
Vm と C の算出
傾きと切片から Vm と C を算出します:
Vm = 1 / (slope + intercept)
C = 1 + slope/intercept
比表面積の算出
単分子層吸着量 Vm から比表面積 SBET を計算します:
SBET = Vm × NA × am / 22414
- NA:アボガドロ数(6.022 × 10²³ mol⁻¹)
- am:窒素分子1個の占有断面積(0.162 nm² = 1.62 × 10⁻¹⁹ m²)
- 22414:標準状態(0℃、1 atm)での気体のモル体積(cm³/mol)
測定条件
測定ガスと温度
- 吸着ガス:窒素(N₂)が標準(化学的に不活性、取り扱いが容易)
- 測定温度:液体窒素温度(-196℃、77 K)
相対圧範囲
BET法では一般に相対圧 p/p₀ = 0.05~0.35 付近のデータが用いられることが多い。しかし、活性炭のようなミクロ孔性材料(IUPAC Type I等温線)では、この相対圧範囲は必ずしも適用できません。ミクロ孔充填の影響により低相対圧域から吸着量が急激に増加するため、BETプロットの直線範囲を個別に選定する必要があります。 活性炭のBET比表面積測定では、通常は Rouquerol基準*) に従って適切な直線領域を選定し、その範囲のデータから単分子層吸着量 Vm および BET定数 C を算出します。活性炭では、解析に用いる相対圧範囲は p/p₀ = 0.01~0.10程度となることが多いですが、実際にはRouquerol基準に基づいて個別に決定します。
*) Rouquerol基準 活性炭などのミクロ孔性材料では、BETプロットの直線領域を一般的な相対圧範囲(p/p₀ = 0.05~0.35)だけで選定することができない。。このため、Rouquerol基準に基づいて適切な解析範囲を選定し、BET比表面積を算出する。
脱ガス(前処理)
測定前に試料の表面に吸着した水分・ガスを除去する脱ガス処理が必要です。
- 温度:一般に 150〜300℃程度(活性炭では 150〜250℃が一般的)
- 方法:真空引きまたは不活性ガスパージ
- 時間:1〜12時間(試料の含水量・吸着量による)
- 注意:過度な高温処理は活性炭の表面官能基を分解させる場合がある
活性炭の一般的なBET比表面積
| 活性炭の種類 | BET比表面積の一般的な値(m²/g) |
|---|---|
| ヤシ殻系粒状活性炭(GAC) | 1000〜1500 |
| 石炭系粒状活性炭(GAC) | 900〜1400 |
| 木質系粉末活性炭(PAC) | 700〜1200 |
| KOH賦活超高表面積炭 | 2000〜3500 |
測定の注意点
- ミクロ孔が極めて発達した材料では、BET理論の仮定が十分に成立しない場合がある:極めて小さいミクロ孔(ウルトラミクロ孔)では多層吸着の仮定が成立しない
- CO₂吸着法との組み合わせ:ウルトラミクロ孔の評価には CO₂ 吸着法(0℃)との組み合わせが推奨される
- 繰り返し測定の再現性:試料前処理条件(脱ガス温度・時間)が結果に大きく影響するため、測定条件の記録・統一が重要である
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